右手の少し明るい方から思わぬ声をかけられた。もうずいぶん薄暗いうえに逆光になっていて、誰だかわからない。見つかってしまったのは仕方がないので、ゆっくりと振り返り目を凝らした。

「あら、春田さん」

そう言って声の主が近づいてきた。なんとか焦点があってきて、わずかに見える顔が人を小馬鹿にしたようにニヤニヤしていて嫌な感じだ。

「……沢波くんか」

見知った頼りなさそうな顔に向かって不愛想に呟くと、また自転車に手を掛け引っ張りにかかる。ついチッと舌打ちしてしまったかもしれない。

「結構引っかかってるから大変やね。ミスった人が慌てて直そうとしてもうまくいかんことも多いんやって。ちょっと代わるわ」

優しい声で冷静にもっともらしいことを言われてはっとした。同時にヒートアップしていた自分が恥ずかしくなってきた。

彼は造作もないことのように次々と起こしていく。そんなこともできなかった自分はいったいなんだったんだろう。私はその様子をただじっと見つめていた。