右手の少し明るい方から思わぬ声をかけられた。もうずいぶん薄暗いうえに逆光になっていて、誰だかわからない。見つかってしまったのは仕方がないので、ゆっくりと振り返り目を凝らした。
「あら、春田さん」
そう言って声の主が近づいてきた。なんとか焦点があってきて、わずかに見える顔が人を小馬鹿にしたようにニヤニヤしていて嫌な感じだ。
「……沢波くんか」
見知った頼りなさそうな顔に向かって不愛想に呟くと、また自転車に手を掛け引っ張りにかかる。ついチッと舌打ちしてしまったかもしれない。
「結構引っかかってるから大変やね。ミスった人が慌てて直そうとしてもうまくいかんことも多いんやって。ちょっと代わるわ」
優しい声で冷静にもっともらしいことを言われてはっとした。同時にヒートアップしていた自分が恥ずかしくなってきた。
彼は造作もないことのように次々と起こしていく。そんなこともできなかった自分はいったいなんだったんだろう。私はその様子をただじっと見つめていた。
※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。