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春の出会い(邪気:110 代謝:75 正気:75)
「テニスやってるんやね。意外……」
「いや何か運動せんといかんかなぁと思うて」
「えー⁉ 沢波くんがうんどう?」
高校時代の僕を知っている木下が驚きを通り越して呆れている。並んで座っていた春田はそんな彼女を不思議そうに眺めていた。
「あ、そうだ。この後ヒマ? ご飯でも行かん?」
前に行こうって言うたよね、と木下がすごく楽しいことを思いついたように誘いかけてきた。(え? 僕なんかでいいの?)なんて顔をしていると、いつの間にか隣の人の視線が僕を向いていた。
「春田さんも行かん?」
慌てて取り繕うように訊いてしまう。何を取り繕ったのかはわからないけれど。突然の誘いに、一瞬躊躇したようだが、「うん」と頷いた。
誘った自分も自分だが、春田が誘いに乗ってくれたことにも驚いた。木下も即OKしてくれた。経験のない微妙な空気が気になる。
コートサイドにある簡易の更衣室兼シャワー室で軽くさっぱりしてから店を考えた。家まで木下と僕は自転車でゆっくり十五分程度だが、春田は駅からまだ電車に乗らなければならない。
そこで、駅前のパスタ屋兼カフェに決まった。三人だけど、二人ですばやく決めて、僕は最後に「いいよね?」と訊かれた。もちろんそれでいいんだけどね、全然。駅前のロータリーにほど近い川沿いにある店の前に、三台の自転車を止め中に入る。
くすんだ白を基調とした店内には籐の椅子と白木のテーブルが並んでいて、昭和とかセピア色とかを彷彿とさせる。学生を中心にざわざわした中、バイトと思しき店員に四人掛けの窓際の席に通された。
春田と木下が隣り合わせに座り、僕が一人対面に座る。(なんか証人尋問される感じ……)もちろん経験はないが、そんな気がした。だいたい今まで女の子とこうして食事をすることもなかったのだ。
それも一度に二人。だから二倍緊張するかと言えばそうではなく、むしろ楽なんだけど。それでも体を小さくして二人の様子を窺ってしまう。そして水の入ったコップを何度も手に取って口にする。
「木下さんは、沢波くんと……」
春田が言いにくそうに口を開くと「高校の同級です」と、すばやくにこやかに木下が答えた。どうやら彼女は割と雰囲気を察して対応してくれるようだ。
『ようだ』というのは、高校時代にはほとんどしゃべったことがないから知らないのだ。