春の出会い(邪気:110 代謝:75 正気:75

テニスサークルは週に二回、基本水曜日と金曜日の放課後二時間ずつになっている。

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別のテニスサークルもあり、ソフトテニスもありと、コートは奪い合いなのだ。三面あるコートを二十人強の人数が取り囲む。上級生が二コートを使うので、一回生の十数人は一コートにまとめて押し込まれてしまう。

ボールを打つ回数は自ずと少なくなり、昔は基礎練習もハードにやっていた僕にとって、これでは運動にもならないかと思いきや、意外とそうでもなく疲れる。

今まで使っていなかった筋肉を使うからかとも考えたりするが、どうもそれだけでもないようだ。

(いかん、足が本当に動かん……)

一歩目が遅く、十歩目に力が入らなくなる感じ。確かに予備校時代にはほとんど動かなかったから筋力は落ちたに違いない。おまけに普通は勉強を頑張ってストレスもかかり痩せる人が多いが、僕は四キロ以上太ったのだ。

まごうことなき筋肉が落ちた上の脂肪太り。おかげで家族や友人に「苦労の仕方が足らん!」といじられた。

しかし食べることくらいしか楽しみがなかったので、ひょっとすると現役で運動していたときより食事の量は多かったかもしれない。

テニスの練習は二時間の間に十分休憩が二回入る。僕はよろよろとコートのまわりに置いてあるベンチに腰を下ろし、ぬるくなったスポーツドリンクを一口飲みこんだ。五月も半ばを過ぎると陽射しもきつくなる。

水曜日の放課後、四時過ぎの陽が斜めに傾く時間からの練習だが結構つらい。ベンチの上には遮るものはまるでなく、いまだ頑張る太陽を睨んでガックリと俯き、(暑さには強かったのになあ)とぼやいた。

「沢波くん大丈夫?」

それに引き換え、隣にちょこんと腰掛けた春田恵美はやけに楽しそうに映る。チラリと横目で見ると、レモン果汁が入ったミネラルウォーターを空に向けて豪快に傾けている。

バイザーをかぶり、後ろで括った黒髪もサラリと光を反射する。真っ白な額と頬には汗がきらきらして、その透明の液体がのどを勢いよく通り抜けるのもわかる。

あんたTVのCMでも撮影してんのかと、つい失礼なほどじっくり見てしまった。そんな風だから、彼女も口では大丈夫なんて言っているけど、全然そんなことを思ってもいないようだ。

だから、「余裕!」と、僕の言うことを黙って聞いてくれそうな地面に向って答えた。けれども自分の目に映る足も、なんだか細くなって色も白くて情けない。色だけなら春田よりも白いんじゃないか。