ほとんど表情を崩さず、事務的に話をした。宅配便の荷物を渡すくらいにも見える。ほんの気持ちはどうも袋の中身だけで終わりのようだ。僕の妙な熱も冷めてくる。
「ほんなら……ありがと……」
と真顔で受け取った。春田はその一連の作業が終わると、じゃあ、といって階段教室の前の方に下りていった。僕が呆然と、芯の強そうな彼女の後ろ姿を眺めていると、隣に座っていた内村がいたずらを見つけた子供みたいに目を輝かせながらズリズリと体を寄せてきた。
「なになに? どうしたんよ?」
「いや、ちょっと手伝っただけよ」
詳しく話すのが面倒くさいとは思った。それに助けたなんていうと尊大だし、かつて記憶にないあの行動を口にするのもどこか気恥ずかしい。それにいつも颯爽としている春田の印象を損ねるようなこともしたくない。また適当に話したといってもうそではない。
「手伝い? 沢ちゃんもう春田さんとちょっといい感じになってきてる? ええなあ、春田さんめっちゃきれいやし、スタイル完璧やし。ちょっときつそうやけど」
「アホ、なるか」
と言い捨てたが、わずかな期待には気づかされてしまった。もっともこの手の期待は過去何十回もあるけれど。しかしこいつはそういう思考回路か。昨日内村が
「女の子の好みは? クラスで言うとどの子?」
と訊いてきたので、
「穏やかな、優しそうな、可愛い人が好みや」
と言ったばかりだ。もちろん誰とは言わなかった。春田恵美は確かにクラスでもひときわ美人だけど、シャープ、スマート、クールという言葉がピッタリな印象なのだ。悪い言い方をすれば、きれる、きつい、こわい。そりゃまだよく知らないからほぼ見た目なんだけど。
いかんせん僕には恐れ多かった。袋の中身は、焼き菓子かなにかだろう。やたら甘く香ばしい匂いが立ち込める。中身も気になるが、奇妙な形で授業を盛り上げている気がして、終わるまで落ち着かなかった。
※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。