春の出会い(邪気:90 代謝:80 正気:80)

井上沙耶(いのうえ さや)と私は入学式で知り合い、すぐに意気投合した。

【関連記事】「出て行け=行かないで」では、数式が成立しない。

大柄な沙耶は、豪快ではっきりした物言いをするから、聞いていて気持ちがよかった。おまけに彼女は大阪から電車で通ってきていて、私も同じ路線なので、そんな話でも盛り上がった。

一昨日、私が読みたかった古めの文庫本を沙耶から借りる約束をしていた。それを今日持ってきてもらったんだけど、同じ作者でこれも面白いよ、と大きな紙袋にハードカバーを含め何冊も持ってきていた。あんたねえ、この大量の本……。

でもまあ少しでいいと無下に断るのもどうかと思うし、この重いのをせっかく持ってきてくれたんだから、ありがたく持って帰ることにした。たぶん嫌な顔は見せず、普段にない笑顔で沙耶と別れることができた、と思う。

帰りが遅くなり、校舎を出る頃にはもう薄暗くなっていた。もともと自分が持っていた荷物も大きく重く、さらに重い本の袋が加わり、これを家まで持って帰ることを考えると、気分まで重くなっていた。

狭い自転車置き場の通路を慎重に進む。この時間になっても結構な数が止まっている。