春の出会い(邪気:90 代謝:80 正気:80)
「痛む?」
「少し……でも大丈夫」
気が付かないうちは平気でも、傷を見た途端痛みが増してくることはよくある。気の強そうな春田はそう言ったものの、口だけじゃなく端正な眉まで歪めていた。
「もう帰るんよね? ずっと自転車?」
こんな僕のことだ。見ず知らずの人なら放っていくんだろうけど、知っているそれも女の子だし、あとのことを考えると、放っておくわけにもいかない。ごく自然な心配を装って尋ねると、「自転車は駅まで。あとは電車」と必要最小限の言葉を弱々しく答えた。
あたりはますます暗くなり、前の道を走る車もスモールライトから強いライトに変わっていた。四月も半ばを過ぎたとはいえ少し肌寒くなってきた。校舎に沿って流れてくる風がさらに体温を奪い、落ち葉を舞い上げる。
「荷物、持つよ。自転車乗れるよね」
僕の問いかけに彼女は黙って頷いた。僕が彼女の手にあった紙袋を取り上げても無反応だった。自転車のかごにも大きな巾着袋が乗っかっている。
しかしこの紙袋は重い。細い紐の持ち手が容赦なく手のひらに食い込んでくる。そりゃあんな華奢な腕の女の子ならバランス崩すのは当然だろう。