娘にとっての母と父

「今日はパパのごはんね」

「そうだよ。何がいい」

「そうねぇ、パパの一番得意なメニューでいい」

「うーん。よし、それじゃスペシャルオムレツでどうだ」

「オッケー。しずく、パパのオムレツ大好き」

幼児教室への道すがら、話ははずんだ。意外に雫も二人だけの生活を楽しんでいるようだ。束の間のことと分かっているからだろう。もちろん異性を意識する歳ではないが、幼い娘は同性の母親とはどうしても密着してしまうし、密着すれば女性としての微妙な競争意識が芽生えるのかもしれない。

例えば洋服を選ぶとき、きれいに飾りたい、可愛らしく見せたいなど、女性本来の嗜好は幼い娘でも持ち合わせていて自分なりに選んではみるが、こっちの方がもっと可愛いわよ、という定型句とともに母親の選んだ模範解答が示されると、一瞬にして目を奪われてしまう。そんなとき、それを選んだ母親に尊敬の念を抱くと同時に、どうしても主導権を握られてしまうくやしさを感じたりもする。

片や父親はいくら同じ屋根の下で暮らしていても、そこまでの密着感はない。そして、この最初に接する異性は、たいがい幼女の感性の領域には無頓着であり、それに絡むことでは全面的に服従する愛すべき存在である。

というわけで、雫も二、三日は二人だけの生活を楽しんではいたが、沙希から、もうしばらく帰れない、とメールがあると、さすがに不満げな顔になった。やはり子供は母親の直接的な分身なのだろう。それにしても少し様子が変だ。義父の容体が思ったより悪いのだろうか。何か自分にできることはないか、と考えてはみたが、思い浮かばなかった。