兆し

疑惑

「そんなの許されるのか」

「活動自体は政治活動ではない。特定の候補者や政党を推しているわけではないので違法性もない。『まちづくりの推進』という定款も法律で定められたNPO活動分野の一つだ」

「ムラも取材した以上、山北の森林が花粉症の元凶ではないくらいの記事を書いたんだろ」

「もちろんさ。山北開発について客観的な特集記事を組んだよ。でも、寂しい話だが若い世代は新聞を読まないんだよ。彼らの情報源は主にネットだ」

村野が嘆息する。

「それにしてもそんな巧妙な知恵を誰が」

「詳細はわからないが、東京の知る人ぞ知る大物コンサルタントが背後にいたのは間違いない。表向き経営コンサルタントだが実際は選挙コンサルタント、いやそれ以上だ」

「それ以上?」

「ああ。なんというか、フィクサーみたいなもんだ」

「どうやってわかった?」

「月生会のイベントを取材したとき、中心となって仕切っている女性メンバーに名刺交換を申し込んだんだ。彼女の肩書は『NPO法人月生会スタッフ倉橋沙也加』だった。いくつかの質問には快く応じてくれたが、発足の経緯や活動資金などの突っ込んだ質問には『わたしは単なるスタッフですから』とのらりくらりとかわされた。

明らかにリーダーなのにどうにも腑に落ちなくて、あとで彼女の経歴を調べてみたら、どうやら『オフィスタートル』というコンサル会社の元社員だったらしい。らしいと言ったのは、ネット上の僅かな痕跡からの推測だ。そのオフィスタートルの主宰が亀山次郎という大物コンサルタントなんだよ」

「うーん、ますます闇は深い。で、月生会の表の代表は誰なんだ?」

藤堂(とうどう)って真栄山大の名誉教授で、完全なお飾りだよ。倉橋にうまくたぶらかされたのだろう。それにメンバーの多くは地元のサブコンの社員で、言っちゃ悪いがとてもNPOなんて(がら)じゃなかったよ。いずれにしても倉橋に操られたロボットだ」

村野は水割りのお代わりを注文した。

「倉橋は月生会と亀山が結びつかないようオフィスタートルを辞めてたってわけか」

「そうだと思う」

村野は出された水割りに口をつけた。吾郷もお代わりを注文する。

「それにしても、それだけの活動をすれば莫大な資金が必要だろ」

「それは言わずもがなさ」

「黒岩か」

村野はうなずいた。

「黒岩産業はじめ、黒岩の息のかかった企業から多額の寄付がなされている。それは月城市役所へ届けている月生会の報告書類で確認できる」

吾郷は輪郭の見えた疑念が黒く塗りつぶされて疑惑に変わるのを感じた。