「ムラ。お前これからどうやるつもり? 証拠を掴むのは容易じゃなさそうだけど」

「うん。確かに壁は厚い。でも考えがある」

「どんな?」

村野はグラスの氷を転がした。

「告発文書の発信者を探し出そうと思っている」

「どうやって?」

「告発者の心理としては、一の矢である告発文書の反応がなかったことに苛立っているだろう。そこでもっと直接的な方法で二の矢を放ちたいと考えるはずだ。でも表立って動くわけにはいかない」

うんうん、吾郷は身を乗りだした。

「そんなに身を乗りだされても困るけど」

村野が笑うと吾郷は、あ、すまんと謝った。

「いや、いいんだ。アゴの情熱が伝わってくるよ。えーと。そう、そこで告発者は文書でなく直接連絡をとろうと考えるだろう。でも、警察は明白な証拠がなければ動かないし、あったとしても黒岩が政治家を動かして捜査にストップをかけるかもしれない。そうなれば告発者本人の身も危うくなる。市役所は談合黙認の当事者だから論外だ。そこで残るのはやっぱりメディアだ。

メディアで公になれば黒岩も世間の目があるから下手なことはできない。でも、メディアの誰に連絡したらいいのかわからない。そこでだ」

村野はグラスをコースターに置いた。

「俺は『山北開発による月城の明るい未来』というような特集記事を組もうと考えている。これなら社も反対はしない」

「なんだ。向こうの肩を持つ気か?」

吾郷は(いぶか)し気に言った。

「そうじゃないんだ。その記事の取材を通じて山北の開発に関わる企業、つまり告発者が籍を置いていそうな企業をしらみつぶしに取材して、俺の名刺をばら撒けるだけばら撒こうと思っている」

「名刺を」

「うん。その名刺には俺の個人携帯番号とアドレスを記載しておく。もちろん、社には内緒で」

「なんとなく見えてきた。つまり告発者が、ムラ個人の連絡先を知ったらコンタクトをつけてくると」

「正解」「乾杯だ」「まだ気が早い」

二人はグラスをぶつけた。

【前回の記事を読む】結託、黙認、談合…二次会のあとのサシ、見えてきた「疑念」