ライジング・スター
眩(まばゆ)い陽光は、さざめいて蒼く茂る木々や爛漫と咲く草花、歌いながら軽やかに宙を舞う鳥たちを輝かせながら水面(みなも)に降り注ぐ。水面は陽光を反射させ、煌(きら)めきは頂点に達する。
一転、この自然の反射板の真下には、光を跳ね返しただけの暗闇と、無音に満ちた世界が広がり、密かに棲む生物たちを覆い隠している。
永田町のホームから地上までが、はるか遠くに霞(かす)んで見える。出口の先には目的地の、おそらくは資産家に生まれついたか、人並み外れた天分に恵まれたか、あるいはただ単に運が良かった、といった人々だけが住むことを許された建物が、周囲を見下ろすように聳(そび)えているのだろう。言うまでもなく、そこへ行きたくはなかった。だが、家族を守るための選択肢は他にはない。
勝ち組と負け組、単純に言えばそういうことだが、スポーツや将棋、囲碁、ゲーム、あるいは選挙などは別として、日常の中で白黒が明白なケースはそう多くない。されど今遭遇しているこの場面は明らかだ。自分自身がその当事者なら、まして相手が友としてつきあった男なら、鬱屈(うっくつ)した感情が澱(おり)のように澱(よど)む。
川島祐(ゆう)の顔を見るのは二年ぶりになる。俺が大学を中退したのちも、しばらくは飲んでは夢を語ったり、遠慮なく批評し合ったり、愚痴をこぼしたり、励ましたりの関係が続いた。つまりは対等な立場の友人だった。だが、あるときからそのバランスが崩れた。そう、あの作品が世に出てから。
「どうだい。今夜一杯」
「ああ、いいね。どこで」
「例の店で、七時に」
いつものように簡単に決まった。お互い時間はたっぷりあったのだ。七時ちょうどに店に着くと、川島は先にカウンターで一杯やっていた。
「よう」
「やあ」
短い挨拶を交わし、さっそく生麦酒(ビ ール)を注文した。
「とりあえず乾杯だ」ジョッキをぶつけた。
「どうだい、最近は」
「ああ。もちろん書いてはいるけど。自分でもイマイチ手ごたえを感じない」
「まあ、なるようにしかならないさ」
「ところでお前はどうなの? あの応募したやつは」
「うん」
「そうか。やっぱり厳しいか」
「それが」
川島は軽く咳払いをして真顔になった。