「実は、主催の葭葉(よしば)出版から連絡があって……受賞したよ」
「えっ本当か!」
「ああ。お陰様で」
「すごいじゃないか。おめでとう」
「ありがとう」
川島は、やや照れたように軽く会釈をした。
「ついにお前も作家の仲間入りか」
「そうなればいいけどね」
「なるとも。川島の才能は俺が認めている」
受賞の事実を聞いた瞬間は驚きとともに、素直に称たたえる気持ちだった。いや、そう思っていた。だが、実は途中から気がついていた。口から出てくる祝福の言葉が、気持ちから離れて上滑りしていることに。飲むにつれ、次第に先を越された思いが強くなってくる。帰りどきと思った。
「俺そろそろ帰るわ」
「あれ、もうかい。まだいいじゃないか」
「いや。このところ根(こん)を詰めて取り組んでいるやつがあって、かなり寝不足だ。このまま飲んでいたら、ここで寝てしまいそうだ」
「そうか。分かった」
「俺も頑張らなくちゃ」
「大丈夫さ。T大文芸サークルのエース、芹生(せりう)研二は特別だ」
彼は俺の顔を正視して言った。
根を詰めて創作しているというのは嘘だった。このところ、さっぱり筆が進まない。「お前は特別だ」という川島の言葉も素直には受け取れなかった。