僕が少しだけペダルを動かして反対側から斜めに持ち上げると、絡まっていたものが簡単に外れ起き上がった。「ほらね」と彼女を振り返ると、唇を尖らせて黙ってじっと見ていた。
自分の自転車も含め残りの十数台もすばやく引き起こすと、何を話すこともなく自転車置き場を出た。そこは窓から明かりが漏れていて、校舎の影になるさっきのところほど暗くはない。
続いて彼女もゆっくり出てきて僕を見上げた。彼女のジャケットやガウチョパンツにはあちこちにチェーンの油が付いていた。
「服、かなり汚れたね」
これから帰らなきゃならないのに気の毒なことだ。春田はちらりと自分を見ると、小さなため息をついて「仕方ないよね。洗濯したら落ちるでしょ」とこともなげに言った。いや簡単には落ちないんだけどなあ、と思ったが僕らしく口にはしなかった。
ふと足元に目をやると、ガウチョパンツの裾から油ではないものが流れているのが見えた。流れるほどなんてよほど切れたか、大きな擦り傷だ。
「ケガしてるやん」
つい出てしまった驚きをはらんだ声に、彼女は自分の足に目を移した。「あ」と声を漏らすと、平然としていた春田の口元がにわかに歪む。
ガウチョの裾を少し持ち上げると、膝の下が斜めに切れていて傷口から血が溢れ出ている。どうやらチェーンカバーかなんかで切ったようだ。
※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。