俳句・短歌 歴史・地理 歌集 日本列島 2021.01.15 歌集「秋津島逍遥」より三首 歌集 秋津島逍遥 【第60回】 松下 正樹 “忘れえぬ旅をまたひとつ三十一文字に封印す” ――日本の面白さに旅装を解く暇もない 最果ての無人駅から、南の島の潮の香りまで、まだ見ぬ土地に想いは募る。 尽きせぬ思いが豊かな旅情を誘う、味わい深き歌の数々を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 春浅く鳴門の泡だつ渦潮に 船かたむけて釣る桜鯛 これやこの鳴門の潮のはぐくみし 若布かぐはしき一椀の汁 山の上の段々畑たがやして 老いづく人ら慎ましく生く
小説 『毎度、天国飯店です』 【第6回】 竹村 和貢 サークル勧誘チラシの前で、『徒然草』を抱えた美人と出会った…。 天国飯店の定休日は毎週火曜日。アルバイト生四人で、月曜から土曜の間の五営業日を分担する。四人のうち誰か一人が二営業日に入る。その者以外の三人のうちの一人が日曜日に店に入る。日曜日は大学が休みなので、朝の十時から閉店の午後九時まで十一時間店に入ることになる。「ほな、俺、明日もバイトやさかい、おっちゃんに自分のこと話してみるわ。多分、おっちゃんも構へん言わはる思うねんけど」夏生は、「できない」とは思…
小説 『彼のために人を焼く』 【第14回】 暮山 からす 一様に目撃者が証言する「ツキシマツバサ」この火事は事故なのか事件なのか? 「そうだ、その人叫んでいました」「叫んでいた?」「ええ。ツキシマツバサがどうとか」「ツキシマツバサ?」顔を曇らせた。行沢は聞いた名前をメモに取っている。「その名前に心当たりはありますか」「いいえ。知りません」それから通報者に何点か話を聞いたが、特段おかしな様子はなかった。他の住民も同じような証言だった。矛盾点や食い違いは見られない。みな一様にツキシマツバサという名前を聞いているが、その存在は知ら…