俳句・短歌 歴史・地理 歌集 日本列島 2020.08.02 歌集「秋津島逍遥」より三首 歌集 秋津島逍遥 【第1回】 松下 正樹 “忘れえぬ旅をまたひとつ三十一文字に封印す” ――日本の面白さに旅装を解く暇もない 最果ての無人駅から、南の島の潮の香りまで、まだ見ぬ土地に想いは募る。 尽きせぬ思いが豊かな旅情を誘う、味わい深き歌の数々を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 次回の記事へ 最新 旭岳 あふぎて歩む 新雪の 降り敷く路に 人は続けり くろぐろと 山の斜面に 雲走る 霰打ちつぐ 貌伏せて耐ゆ 仰ぎ見る 観音岩に 這ふ蔦も 紅葉しにけり 層雲峡に 仰ぎ見る 観音岩に 這ふ蔦も 紅葉しにけり 層雲峡に
エッセイ 『プリン騒動[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 風間 恵子 「そんなプリンなんか作ってないで、早くメシのしたくしろ!」台所で一挙手一投足に怒り狂う義父。言葉の暴力が鉛となって心臓を突き抜けた。 ある晩のことだった。三人で、夕食のしたくをしていた。この三人と言うのは、舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)・嫁すなわち、私の事である。台所は女の神聖な場所と考えられているのではないか。しかし、この家では、舅が当たり前のように立つことが多い。自分が調理したものは自慢をするが、人の作った料理は決して、美味しいとは言わない。逆に貶す事に喜びを感じるタイプである。野菜の切り方から、味つけまでを一つ一つ指摘…
小説 『魂業石』 【第12回】 内海 七綺 「子供はまだか」…? 手のかかる異分子は当面、必要ない。夫も義父母も、どうしてそんなに子供を欲しがるのだろう。 六月にしてはからりと晴れた水色の空に、ピンポンパンポンと間の抜けた音が鳴り響く。開け放たれた窓から爽やかな風とともに飛び込んできた声は独特のハウリングがかかっていて、こんなに静かな真昼だというのにほとんど聞き取れない。それから五分を待たず、支所の電話が一斉に鳴りだした。「はい。飛熊市緋桜支所住民課の真田でございます」「おいお前、何時だと思ってんだよ。朝の十一時だぞ」溜息を飲み込み受話器を上げると…