第Ⅰ部 医療経営戦略

第3章 経営戦略論

理念、ビジョン、ドメイン

われわれは日々のルーチンの仕事をこなしているうちに自身の仕事が組織(企業、病院)あるいは社会の中でどういう位置づけにあるかを見失うことがあります。

イソップ寓話「3人のレンガ職人」はご存じの方も多いと思います。レンガを積む作業をしている職人に「あなたが今行っている作業は何ですか」と尋ねたところ、1人目の職人は「見れば分かるだろう、レンガを積んでいるのさ」と回答し、2人目の職人は「レンガを積み上げて壁を作っているのさ」と答えました。

3人目の職人は「レンガを積んで壁を作り、それがやがて大聖堂になります。子供たちが大きくなったとき、その教会を彼らに見せることを楽しみに、今こうやってレンガを積んでいるんです」と答えました。

このように同じ仕事や作業であっても働く人の意味づけによって「単純労働」にもなるし、「夢への実現の一歩」にもなり、自身の仕事の位置づけが異なってくるという例です。

われわれ医療者も同様で、日々与えられた仕事をこなすのみに終始するか、日本の医療を変革させるとか、社会全体を幸福にするためにとかいった意味づけをするかによって意識が変わってきます。

アップルは自社を「世の中を変える新しい何かを作り出す会社」と定義し、決して製造業やコンピューター会社などといった定義を定めていません。このように高い目標を設定することをBHAG(Big Hairy Audacious Goal)と呼びます。