俳句・短歌 歴史・地理 短歌 平安の都 2020.12.01 歌集「花と散りにし」より三首 花と散りにし 【第17回】 松下 正樹 平安末期、国を二分する戦いが起こった。それは保元の乱と呼ばれる戦乱であり、古代から中世へと、貴族政治から武家政治へと時代を切り拓いていく端緒となった。 この乱の原因である天皇家と藤原摂関家の内紛から崇徳院の配流という結末までの経緯が詠まれた創作短歌を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 神職がこのありさまに異を唱ふここに弓矢を帯びてはならぬと 腹の虫をさめかねたる郎党があやふき威嚇の矢を放ちたり あな不思議放たれし矢は空に舞ひ神殿に居し人を傷つく *久安(きゅうあん)三(一一四七)年六月十五日、事件発生。清盛三十歳。
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『ツワブキの咲く場所』 【第4回】 雨宮 福一 床へ降り立った足は、恐ろしく白く、少女の足元に影はない。統合失調症を患ってから、彼女が傍に現れるようになった。 「……夢だ」ぽつり、私は呟いた。ベッドの上。いつもと同じ一日の始まり。ダウンジャケットを羽織って、廊下に出る戸を押し開けたら、きい、と音がした。「喉、渇いたな」カーテンの隙間から、太陽の光が差し込む。ついカーテンを開けて外を見た。木の枠に縁取られた窓からは、ざわざわ揺れる雑木林、そして手入れの行き届かない伸び放題の松が見える。ありふれた一日の始まり。階段を下りる。ふすまで仕切られた部屋を抜け、キ…