第2章 医師法第21条(異状死体等の届出義務)条文の歴史的経緯
(1)医師法第21条の歴史と異状死体の意味するもの
医師法第21条(異状死体等の届出義務)の原型は、旧医師法施行規則第9条(明治三十九年)である。同条は、「醫師死體又は四箇月以上の死産児を検案し異常ありと認むるときは24時間以内に所轄警察官署に届出へし」となっており、昭和十七年十月国民医療法施行規則第31条で『異常』の文字が『異状』に変わり、「醫師死體又は四箇月以上の死産児を検案し、異状ありと認むるときは24時間以内に所轄警察署に届出べし」となった。
その後、昭和二十三年七月、現在の医師法第21条「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」となったのである。
現在の医師法第21条は『異状』の文字が使われているのに対し、旧医師法施行規則第9条では『異常』の文字が使われている他は、ほぼ、同一の条文と言っていい。その解釈も従来の考えを継承して来ていると考えてよさそうである。
「醫師法醫師會法釈義」による旧医師法施行規則第9条の解説
旧医師法施行規則の解説書としては、大正三年、山崎佐著『醫事法律叢書第一篇:醫師法醫師會法釈義』がある。同書は死体の定義について、『死體』とは、「常識で判断するもので、人の死屍一般を指す。地位、身分、年齢、男女を問わない」としている。
『異常』の定義に関しては諸説あり、死體又は死産児自体の外観的異常のみで判断するとした狭義の客観説から、検案した医師が異常ありと認識した時は届け出るべきとする純主観説まで諸説あると述べている。
同書は折衷説を支持し、本条文は医師に「届出の義務を命じて、間接的に殺人堕胎の如き犯罪捜査の便に供するものである」としている。犯罪捜査への協力として考えると、「医師が死体に異常を認めた時は、四囲の状況を考慮して、一般的医師の判断として異常ありと認識した時は、24時間以内に所轄警察署に届出るべき」と述べている。
「診療関連死」は、同条の対象となっていない。四囲の状況の異常とは、死産児を便壺内より発見した場合、又は往来稀な山間で発見された死體等としている。『検案』とは、(診療中の患者死亡の場合に発行される死亡診断書ではなく、)診療中の患者以外の死体について死体検案書を発行すべき場合の死體外表面の診察とされている。