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翌日も好天が続いた。遅い朝食の後、エスプレッソを飲みながら新聞に目を通していると、コンシェルジェが傍を通りかかって声をかけた。

「宗像様、何かご用がございましたら何なりとお申し付けください」

「ちょうど良かった。君に聞きたいことが。こちらはたくさんの美術品をお持ちのようですね? 絵はいつもどこに展示してあるのですか? それに美術館は?」

「はい、絵は、玄関ホール、フロントロビー、サロン、その奥のレストラン四季、そして反対側のバー・ドゥラードなどに、常時十点ほど展示してございます。美術館の方ですが、バーの脇の廊下を直進し、突き当たって左に曲がってくださいませ。正面にございますので、どうぞゆっくりご覧下さい。それに、このロビーからも見えますよ。はい、あちらのほうです。庭園側のガラス・スクリーンを通して、ほら、外に見えますでしょう、あれがプリメイロ美術館です」

コンシェルジェは得意そうに説明したのだが、このように付け加えることも忘れなかった。

「これが美術館のパンフレットでございます。御覧いただく前に是非どうぞお読みください」

この旅行に際して心地から勧められたホテル・プリメイロの美術品とはいったいどのようなものなのだろうか? パンフレットにはこう記されていた。

[プリメイロ美術館]
・ホテル・プリメイロ:一九三〇年創設
・プリメイロ美術館:一九六五年創設
・所有者:セテンタ財団(セテンタ・グループ代表)
・所有絵画:約二五〇〇点。その他美術骨董二〇〇〇点
・絵画の特徴:ラファエル前派を始めとする十九、二十世紀における男と女のシンボリズム絵画の収集
・展示当館で所有する絵画の主なる画家:ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ジョン・エヴァレット・ミレー、W・H・ハント、サルバドール・ダリ、ギュスターヴ・モロー、フェルナン・クノップフ、ピュヴィ・ドゥ・シャヴァンヌ、……オディロン・ルドン、グスタフ・クリムト、エドヴァルド・ムンク、デ・キリコ、ポール・デルヴォー他多数。

錚々たる画家たちのコレクションである。宗像は美術館で夥しい傑作の数々を目の当たりにし、圧倒されてロビーに戻った。

カタログの中では、ラファエル前派の絵の中でも特に重要な役目を果たしている、普通のモデルを越えたモデルの存在と言われる“ファム・ファタル=運命の女”に関する説明が、特別に枠を割いて記述されていた。

それはピエトロ・フェラーラの描く《緋色を背景にする女の肖像》のアンナの存在を想起させた。更にこのファム・ファタルという言葉は、運命を意味するラテン語の言葉ファトゥムが語源となったポルトガルの歌ファドをも連想させた。

イギリスとポルトガルとを長年歴史的に関係づけてきた、軍事的・政治的・経済的な状況はもちろんだが、[ファトゥム=運命]の存在によって、か細いものかもしれないが、民族の強くて確実な文化の糸の存在が感じられたのである。