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そうか、これはフェラーラ一家の家族写真なのか? 右手に絵筆を持ち、イーゼルにセットされたキャンバスにその筆を乗せ、ポーズをとっている左端の大男がフェラーラなのか?
ナショナル・ギャラリーで見た四冊の資料には、フェラーラの顔写真は一枚もなかった。フェラーラは写真嫌いだったせいか、あのとき画集を見た折、画家の顔写真が一枚もないことを不思議に感じた記憶が蘇った。
わずかに二十八点の絵の中に、彼自身の自画像が一点、あるにはあった。しかし横向きだったためか記憶に残らなかったようだ。
しかしこの写真はフェラーラをほぼ正面から捉えている。かなり痩せた大男である。
細くて長い色白の顔の奥にキラリと光る二つの瑠璃色の瞳。横一文字に結んだ薄い唇。細くて高く筋の通った鼻梁。俯き加減の視線。いかにも繊細で神経質そうな顔。
なかなかの男前だが、画家というよりは、むしろインテリ風な顔付きである。例えば、それは技術者とか弁護士とか大学教授のように見えていた。
長袖の花柄のワンピースを着て、反対側に立つ若い女性は妻アンナか? やはり細身の体躯。
二十八点中二十六点を占めるフェラーラの絵に登場する絶世の美女。モデルはやはり奥さんのようである。瑞々しさを湛えた小さめの丸顔は小麦色だ。緑色の二つの瞳。
引き締まった情熱的な唇は、ブロンドの豊かな髪によって誇張され、際立った艶かしさを醸し出している。軽い緊張感を漂わせながらも、心の強さを感じさせるような、きりりとした面持ちの女性である。
だが、このことこそいったいどうしたことか? カウチ・ベンチに座り、笑いを振りまくユーラ、ユーレと記された同じ年頃の二人の女の子は、誰なのか?