俳句・短歌 歴史・地理 歌集 日本列島 2020.10.23 歌集「秋津島逍遥」より三首 歌集 秋津島逍遥 【第36回】 松下 正樹 “忘れえぬ旅をまたひとつ三十一文字に封印す” ――日本の面白さに旅装を解く暇もない 最果ての無人駅から、南の島の潮の香りまで、まだ見ぬ土地に想いは募る。 尽きせぬ思いが豊かな旅情を誘う、味わい深き歌の数々を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 湧泉の深く澄みたる水底に 眼凝らせどうろくづも見ず *うろくづ 魚。 観音の眼ざしやさしお魚を 胸に抱きて海はしづけき 晩秋の空にただよふ雪虫は 夕かげのなかにあをじろく舞ふ *雪虫 アブラムシ科の昆虫。
小説 『再愛なる聖槍[ミステリーの日ピックアップ]』 【新連載】 由野 寿和 クリスマスイヴ、5年前に別れた妻子と遊園地。娘にプレゼントを用意したが、冷め切った元妻から業務連絡のような電話が来て… かつてイエス・キリストは反逆者とされ、ゴルゴダの丘で磔はりつけにされた。その話には続きがある。公開処刑の直後、一人の処刑人が十字架にかけられた男が死んだか確かめるため、自らの持っていた槍で罪人の脇腹を刺した。その際イエス・キリストの血液が目に入り、処刑人の視力は回復したのだという。その槍は『聖(せい)槍(そう)』と呼ばれ、神の血に触れた聖(せい)遺物(いぶつ)として大きく讃えられた。奇跡の逸話(…
小説 『小窓の王』 【第3回】 原 岳 あの冬、剱岳での遭難事故から…もう初夏だ。あの人の写真をなぞる。「早く、迎えに行きますから。必ず、探し出しますから」 しかしもう部屋を出なければならない時間で考え込んでいるわけにもいかないので、まあ、それ以外の意図はないのだろうと半ば無理やり思い聞かせ、便箋を茶封書にしまう。ビジネスバッグに入れようかと取り上げるが、間違って長倉の両親の目につくようなことがあってはいけないと思い直し、しまわずに机上に置く。立ち上がり、用意しておいた菓子折りの手提げを手に取る。これも心配になって中身を確認すると、菓子折りはきちんと…