【前回記事を読む】23歳の母は幼い娘とスーパーの帰り道、突然ナイフを持った男に腹を刺された。娘を抱き寄せたまま、手足は急速に冷えていき……

Case:C 娘の選択

葬式に麗奈の両親や身内は参列しなかった。ヤクザの女となった娘と関わりたくなかったのか、あるいはただの薄情か、そもそも既に故人か。ただ、式場の外で言い争っている二人の男にとってそれは二の次だった。

「おやっさん。俺に仇を取らせてください」

「ダメだ」

「何故です! 誰がやったかもう調べはついてるんですよ!」

「ここでやり返して本格的にサツから睨まれてみろ。俺たちゃ明日のメシを食うのにも困るようになる。サツやマスコミ、議会の連中が風俗街や飲食街の解体を目指すっつう計画を進めてんのはお前も知ってるだろ。最近は組対(組織犯罪対策部)のデカたちもキナくせぇ。ガサ入れがありゃ終わるんだよ」

「こっちはオンナ殺されてるんだ! 黙ってられるか!」

「大人になれヅカ坊」

「家族やられて黙って縮こまるのが大人になるってことなんすか!」

「お前がパクられちまったら、あのガキが悲しむだろうが」

「なんだと?」

「だからこの件は俺に任せろ」

「任せろって、アンタ……。いや、よしてくれ。アンタが出向く必要はねぇ! これは俺の問題なんだ。そもそもヒナの父親はアンタだろうが――」

「俺はなヅカ坊。どうしてもあのガキを愛せねんだ」

その残酷な宣告を鬼塚は正面から受け止められなかった。自分の子どもを愛せないなど、あっていいはずがない。

「アンタ……なに言ってんだ」

「俺にとってあのガキは、桜良を奪った張本人なんだよ」

竹虎はまだ式の途中だというのに一人でどこかへ行ってしまった。それきり二度と戻ってこなかった。麗奈の命を奪った実行犯と、裏で手を引いていた敵対勢力の若頭を殺害し、その首を組へ送りつけてから警察署に向かったそうだ。

☆二〇一九年

「おやっさんに下された判決は無期懲役でした。初めの仮釈放の審理があるのは三十年後。まだざっと二十年あります。ですがその日を迎える前に獄中で死んじまうでしょう。弁護士が定期的に面会へ行っているのですが、最近は認知症が進んじまってるみたいで、もう俺のことも分からないみたいなんです。まだそんなに老け込む年でもないのに……」

葵は何か気の利いたことを言おうとしたが結局思い浮かばなかった。気の毒。それ以外にあの少女を評する言葉が出てこない。