【前回の記事を読む】結婚と上京を決めた僕に、父は「縁を切ったと思え」と…だが今になって突然、近所に越してきて「世話になる」と…
一 困惑
美幸のページ
夫と義父母の確執については、口を出さないに限るというのが正直な気持ちだった。大学時代、夫から農家の大変さを何度も聞いていた。都会っ子の私にとって、それは新鮮ではあってもピンとこない遠い話だった。
そしてその夫と結婚する決意をした時、「実家の問題は私にはわからないから、そのことは私を巻き込まないでね」と勝手なことを言ったみたいだった。それは父から釘を刺されたことも影響していた。実は、はっきりとは覚えていないんだけど。
ただやはり嫁と舅・姑の問題はどの家でも存在する。大学の友達は結婚を賛成されなかったとしても、相手の両親と関係が悪くならない程度に訪問をしている人が多い。日頃、舅・姑には会いたくないと言っている親友の恵美でさえ、盆暮れには舅の家を訪れ、子供たちはお年玉をもらったりしている。
我が家だけ、意固地になって親との関係を修復しないために、娘のお年玉が少ないのはやっぱり気が引けた。恵美からも「冷静に見て、あんたが取りなさないと後で大変になるわよ」と言われてきた。それはわかっていたが、時間が経っているだけに義父母との軋轢に介入するのは、とてつもなく時間がかかりそうだったので、問題を先送りにしてきた。
麻衣は父の生まれた地域のことを知りたいと思ったようで、小さい頃から何度も家のことや地域のことを聞いていたが、夫は漠然とした話しかしていなかった。私にも同じことを聞くので「ごめんね。行ったことがほとんどないから、家の様子はよくわからないの」と謝ると、「写真だけでもあればいいのに」とぼやいていた。
それだけに麻衣にとっては、二人の上京は、今まで知りたくても教えてもらえなかった長野の話を聞ける絶好の機会になったようだ。
義母は目を細め、思い出すように家の話や家の周りに広がる自然について話をしてくれるらしい。話をする時とても楽しそうで、義父も隣で頷きながら聞いていたと麻衣が言っていた。普段ほとんどしゃべらない義父も、自分が行ってきた農作業の話などを聞かせてくれたようだ。