【前回の記事を読む】両親のことで妻に相談すると「自分の親でしょ。まずはあなた自身でやるべき」と冷淡に言われ…共働きで家事育児も担わせている負い目があるとはいえ…

一 困惑

敏のページ

なんだか距離を取られていると感じた。そのことは仕方がないと思う反面、家族なのにそれはないだろうという言葉が自然に湧き上がってきた。

母と連絡を取っていたことで両親の様子を知っていたため、親に何かあれば自分が面倒を見るしかないと思っていた。それなのに、妻である美幸にその気持ちが見えなかったことに正直がっかりした。

美幸との結婚は、両親に反対されたものの押し通した。美幸が出産や育児を自分の親に少しだけ手伝ってもらいながらも、ほとんど一人でやってきたことは大変だったと思う。

けれど、僕も美幸と同じくらい頑張った。マイホームを持ち、会社でも順調に出世してきた。会社の同僚と比べても悪くない人生を送ってきたと満足していた。今の生活を築いてこられたのは、美幸と協力してやってきた結果だ。二人で頑張ってきたのは、親父を見返したいという気持ちもあったからかもしれない。

それだけに「俺たちとは他人同士だと思え」と言っていた親父が、突然近所に越してきて「世話になる」と言っているみたいですっきりしなかった。親父に頭を下げてもらわないと、このもやもやした気持ちが解消されないと思えて仕方なかった。

その一方で、親のことを放っておいたことは、ずっと負い目にも思ってきた。だから自分も両親に頭を下げないといけないだろう。そう思うと、親とのことは解決するのに時間がかかることなので、できるだけ見ないようにするしかないと勝手に思い込んでいた。でもこんな複雑な気持ちを今、娘に言えるはずはない。

「麻衣には話したことがなかったけど、おじいちゃんたちに東京で就職するのを反対されたんだ。そしてその頃に付き合っていたママと二年後結婚したいと相談したら、『もし結婚するならもう縁を切ったと思え』とまで言われたんだ。だから結婚式にも出てもらわなかった。麻衣が生まれても、知らせを送っただけでお祝いももらわなかった。そんな調子だったから気まずくて、麻衣をおじいちゃんたちに会わせられなかったんだ」と説明した。

首をかしげる麻衣の顔を見て「おじいちゃんはパパに農家を継いでほしかったけど、パパは銀行員になりたかったんだ」と続けた。