「ふ~ん。そうなんだ。パパが東京で就職したのはママと結婚したかったからでしょう。たしかママとは大学時代の同級生だったんでしょう。パパはママに一目ぼれだったんだと前にママから聞いたことがある。どうしても結婚したいから、親を捨ててもいいってママに言ったんでしょう。ママが感激したんだって」

余計なことをしゃべられると親の威厳も何もないと恥ずかしい一方で、美幸との大切な思い出がよみがえりうれしかった。とはいえ、父親をだしにして美幸と麻衣で昔の恋バナで盛り上がっているかと思うとちょっと複雑な気持ちだった。

そんな想像をしてにやけていたのか、「パパ珍しく照れてる。なんかおかしい」と笑われた。

「おじいちゃんたちは勝手にパパが東京の銀行に勤めても、数年したら地元の会社に再就職して地元の人と結婚するものと思っていたんだよ」

「どうして本人の意思に関係なくそんなことを思うんだろう」

「それは難しい問題なんだよ。とても一言では言えないな」

「そうなんだ。だから一緒に暮らさないし、二人ともあまりおじいちゃん家に長くいないんだね」と麻衣が言って話は終わった。でも麻衣は何とも言えない表情をしていた。

農家を継ぐか継がないかというのは、我が家だけでなく多くの農家が抱える問題だ。それは簡単に解決できることではない。本人たちでないとわからない苦労がある。

農閑期、親父も何年も首都圏に出稼ぎに行った。無事に帰ってくるか子供心に心配したものだ。東京では工事現場などで季節労働者として働いている人が大半だったようだが、詳しい話を子供にする人はほとんどいなかった。親父も知り合いに頼まれて東京に行っていたが、知らない人ばかりでやったことのない建設現場の作業がきつかったようだ。

そのうち農閑期も地元で現金収入を得るため、資格を取ってスキー場の大型除雪機を操縦するようになり、スキー場が開いている間は毎日朝早くから除雪作業に行っていた。そんな親を見て農家は大変だとずっと思ってきた。農家を継ぐのは覚悟が必要だと思っていた。

 

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