【前回の記事を読む】農家出身の夫と結婚を決めた時「実家の問題には、私のことは巻き込まないでね」と伝えた。都会っ子の私には、夫が語る農家の大変さは…
一 困惑
麻衣のページ
私が一人っ子で不自由に思ったことはない。ママがずっと仕事をしていることも、小さい頃は友達のママから「寂しくないの?」なんて言われ、寂しくないと言えばうそになるけど、そんなに気にするほどではなかった。口うるさく勉強するように言われないだけましだった。
今は友達からママのことを「ずっと仕事をしてキャリアを積んでいるなんてすごい」と言われることもある。世の中変わったものだと思う。高校のクラスでも一人っ子の人が三分の一はいるし、ほとんどの親が働いているので全然気にしたことはない。でも時々兄弟仲良くゲームをやったり、外で遊んだりする話を聞くと、うらやましくなることがないわけではない。
だから長野から来たおじいちゃんやおばあちゃんと話ができるのは新鮮な体験だった。住んでいた地域や家の話を聞くうちに単純に「大きな家で暮らしていたのに、今はあんな狭いアパートで窮屈なんじゃないか」とおじいちゃんたちのことが心配になった。その話をおばあちゃんにしたことがあった。
「最初はあまりに狭くて戸惑ったけれど、あっちは何か買いに行くとしても近くにお店がないのよ。だから車が必需品だった。今のように近くに何軒もお店がある方がずっと便利なのよ。買い忘れたものがあってもコンビニが夜遅くまでやっているので心配いらないのも本当に便利よね。特に私のように野外だと光の関係で目が見えにくくなる時がある人間は、今の環境で助かっているのよ。
それに大きな家は掃除が大変だったから、掃除が楽なのもいいわね。使っていない部屋でも埃はたまるからね。時々掃除をしておかないと後が大変になるけど、それも実は負担だったの。こっちは電化製品も使いやすいものが簡単に手に入るし、いろいろ選べて買えるのも魅力よね」と笑って言っていた。
こちらで過ごす今の生活に満足しているように話をしているが、時々見せる寂しそうな表情からは快適な生活と言っても何かあるのではないかと心配になる。「おばあちゃんが時々寂しそうにしているのがとても気になっていたの。本当はしてもらいたいことがあるんじゃない」と聞いてみた。
「庭が狭くてお花を植えられないのがちょっとね。我が家は昔から沢山の花が植わっていたの。敏が友達に『お前の家の庭は丹精込めているからあんなにきれいなんだよ。お前の母さんは本当に草木が好きで花が咲くように考えながら手入れをしているんだね』と言われたとうれしそうに自慢していたことがあったわ。雑草が増えないように毎日庭の手入れをしていた。
だから目が悪くなって咲いている花の色がはっきり見えなくなり、抜いていい草かどうかわからなくなってしまったのが本当に残念なの。あの地域は雪深くて冬が長いから、せめて草花を沢山植えて春を待つという習慣があるの。それに家の裏にあった寺にお墓参りに行くのに使ってもらえるように、昔から花を植えてきたのよ。草木を植えることにも、ただの趣味ではなく謂(いわ)れがあるのよ」