【前回の記事を読む】誰も彼と組みたがらない理由は、殺人現場での“非常識な行動”にあった…現場では絶対にありえない、刑事ドラマでよく見る行為とは…
ダウト2――シェイクスピアを疑え
「何ですか、これ。『ハムレット』……舞台のチケットじゃないですか」
「いかにも。シェイクスピアの演劇ほど男女の仲を取り持つ最高の舞台はない」
「いや、『ロミオとジューリエット』なら分かりますけど、『ハムレット』は重いでしょう」
「何を言うか。『ハムレット』は愛と欲望、裏切りと復讐の物語だ。これほど付き合う前の男女に相応しい物語はない」
「いや、愛はともかく、裏切りと復讐は縁起でもないでしょう」
「男女の関係になる前に、人間関係が如何に複雑で、恐ろしい悲劇の原因になりかねないことを承知しておくべきということだ」
「ほんと、性格捻じ曲がってるな……」
「要らないなら別によいが」
そう言って天蓋はチケットを内ポケットにしまおうとした。
「あ、いや、頂きますよ。この際贅沢は言っていられませんから」
高井良は慌ててチケットに手を伸ばした。
「天蓋さんはどうして舞台のチケットを2枚買ったんですか?」
詩が訊ねた。
「まあいいじゃないか。それでは頑張ってくれたまえ」
天蓋は高井良の肩を叩き、ニヤッと笑った。高井良が刑総の部屋の前で中を窺っていると、ちょうどいい具合に中からコロネが出てきた。彼女は高井良に鉢合わせると驚いたように立ち止まった。
「何か御用ですか?」
高井良は用心深く周囲を見回してから彼女に話しかけた。
「あ、あの、コロネちゃん、じゃなかった、保倉さん、お芝居とか興味ありますか? 実は『ハムレット』のチケットが偶然2枚手に入ったので、一緒にどうかなと思って」
「はあ、何で私に?」
「い、いや、もし興味があればと思って」
「興味がないわけじゃないですけど……いつですか?」
「10月31日火曜日の夜です」