高井良が部屋を出てトイレに行くと、背の高いイケメンの青年が洗面台で手を洗っていた。

「おお、高井良じゃないか」

青年は鏡越しに高井良に目を合わせて言った。嫌な奴に会ったと思って高井良は眉をしかめた。

伊藤璃央(りお)は高校の時からの同級生で、東大心理学研究室でも一緒だった。

その頃から2人とも将来刑事を志すライバル関係にあったが、伊藤が念願の捜査一課に配属されたのに対し、教3という奇妙奇天烈な部署に配属された高井良は彼に対し激しいコンプレックスを抱いていた。

「ほら、これ見ろよ」

伊藤は高井良の方に振り返り、背広の襟につけている『S1 Smpd』の金文字が入った赤いバッジを彼に見せつけた。それは高井良が喉から手が出るほど欲しがっていた物だった。

「いいだろ。これをつけられるのは捜査第一課員だけなんだぜ。ところでお前は刑事教養第3係、だったっけ? そこって一体何すんの?」

「僕はとくめ……いや、大事な仕事があるんだ」

「お前みたいなとろいのにはお似合いかもな。俺なんかもう、殺人事件を担当することになったんだぜ」

「えっ、殺人事件!」

「すごいだろ」

高井良は殺人事件と聞いて伊藤が羨ましくてしょうがなかった。

「殺人事件ってどんな事件なんだ?」

「お前なんかに教えるわけないだろ」

「どうせ大した事件じゃないんだろ」

「ちっ、馬鹿にするな。じゃあ教えてやる。今TVのニュースでやっている昨夜のY公園銃撃事件だ」

「えっ! あの事件……」

「どうだ、すごいだろ」