【前回の記事を読む】同棲を始めて、彼女がすぐ息切れすると気づいた。病院を勧めると「実は持病がある」と打ち明けられ…指定難病だった。「引いた?」と聞かれたが…

4.

結婚して半年ほどが経った頃のことだった。

千春は相変わらず、元気に武蔵でバイトをしていた。お客さんとよく話し、笑って、テキパキと動いていた。渉から見ても、病気を抱えているようには見えなかった。薬をきちんと飲んでいれば、普段は普通に生活できる。千春はそう言っていたし、実際そうだったと思う。

ただ、家族になった分、渉が千春を心配する気持ちは大きくなっていた。重い荷物を持ったり、歩くペースを合わせたり、千春の体の調子に合わせ続けた。武蔵で一緒に働いているときも、千春が少し息を切らしていたら、黙って代わりに動いた。千春は「大げさだよ」と笑ったが、渉は黙って続けた。

ある夜、閉店後に千春が渉に言った。

「渉って、さりげないよね」

「何が」

「さっき、私が重い箱を持とうとしたら、さっと取ってくれたじゃない。毎回そういうの、自然にやってくれる」

「持てる方が持てばいいかなと思って」

「病気だから気を遣ってるの?」

渉は少し間を置いた。

「病気とか関係なく。俺がそうしたいから、そうしてる」

千春はそれを聞いて、少し照れた顔をした。

「……ありがとう」

*

妊娠がわかったのは、結婚して1年が経った頃だった。

渉が武蔵から帰ると、千春がリビングで待っていた。テーブルの上に、細長い白い棒が置いてあった。

「渉」

「うん」

「赤ちゃん、できたみたい」

渉はその言葉を聞いた瞬間、動けなかった。

テーブルの上の白い棒を見た。千春の顔を見た。千春の目が潤んでいた。渉の胸の中で、何かが大きく動いた。

(赤ちゃん…)

自分に子供が、できる。千春との子が、生まれる。