【前回の記事を読む】彼女の髪をそっとかけ、そのまま耳裏に指を滑らせた。「溶けそう」と漏らす彼女…首筋を甘噛みすると、ビクッと身体を震わせて…
3.
それから半年が経った。
渉と千春は、ごく当たり前のように一緒に暮らし始めた。千春の部屋に渉が引っ越す形になった。
一緒に暮らし始めて、渉は初めて知ったことがたくさんあった。
千春は朝が弱かった。目覚ましが鳴っても起きられなくて、渉が肩を揺すってやっと起き上がった。起き抜けはぼんやりしていて、ごはんを食べるまでほとんど話せなかった。
料理は好きで、休みの日にはいろいろな料理を作った。渉は何を出されても「美味しい」と言った。本当に美味しかったから。
本も好きだった。本棚の前にしゃがんで、どれを読もうか長い時間迷うこともあった。渉は隣でコーヒーを飲みながら、それを見ていた。
ある夜、千春が言った。
「渉くん、私にまだ敬語使ってるよね」
渉は少し驚いた。言われてみれば、そうだった。付き合い始めてからも、一緒に暮らし始めてからも、渉は千春に敬語を使い続けていた。
「……癖になってて」
「年上だから気を遣ってるの?」
「そういうわけじゃないけど」
「やめてよ。一緒に住んでいるんだから」
千春はそう言って笑った。渉は少し照れた。
「……努力してみる」
「努力じゃなくて、自然にね」
それからだった。渉は少しずつ、千春への言葉を変えていった。最初はぎこちなかった。「これ、美味しいな」と言いながら、言った後に少し恥ずかしくなった。「今日、疲れてるみたいだけど大丈夫?」と言って、千春に「だいぶ自然になってきた」と笑われた。
少しずつ、慣れていった。