その言葉を聞いた瞬間、渉の胸の中でまた、何かが大きく動いた。

うれしかった。産みたいと言ってくれることが、うれしかった。でも同時に、胸が締め付けられるように怖かった。千春を失うかもしれないという恐怖と、千春との子供に会いたいという気持ちが、渉の中でぶつかり合った。

渉はしばらく黙っていた。

千春の目を見た。

まっすぐな目だった。怖がっているのに、決めている目だった。

「……わかった」

渉はそれだけ言った。それ以上は、言えなかった。

「でも、絶対に無理しないで。少しでもおかしいと思ったら、すぐに言って」

「うん」

「1人で抱え込まないで」

「わかってる」

千春は笑った。その笑顔が、渉にはどこか切なかった。

渉はその夜、布団に入ってから、天井を見た。

(俺、お父さんになるのか)

じわじわと、実感が湧いてきた。

お父さん。

その言葉が、妙に温かかった。そして同時に、ひどく怖かった。

隣で千春が眠っていた。渉はそっと、千春の手を握った。千春は眠ったまま、ぎゅっと握り返した。

渉はそのまま、千春の手を握りながら、朝まで眠れなかった。

次回更新は10月1日(木)、22時の予定です。

 

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