【前回の記事を読む】バイトの年上女性と2人きりでの閉店作業が重なり、なんとなく一緒にいる時間が増え…ご飯に誘われて、そのまま…

3.

ラーメン屋は、武蔵から歩いて5分のところにあった。

カウンターだけの小さな店で、スープの匂いが路地まで漂っていた。千春は「ここのつけ麺が最高なんだよね」と言いながら、迷わずカウンターの端に座った。渉はその隣に座った。

「何にする?」

「千春さんのおすすめで」

「じゃあつけ麺の大盛り。絶対後悔しないから」

千春は慣れた様子で注文した。渉は言われた通りにつけ麺の大盛りを頼んだ。

料理が来るまでの間、千春はよく話した。昼の仕事のこと、最近読んだ本のこと、武蔵のお客さんの面白いエピソード。渉は相槌を打ちながら聞いた。

つけ麺が来た。

ひとくち食べて、渉は少し目を見開いた。

(うまい)

久しぶりに、食べ物を美味しいと思った。

武蔵の賄いだって美味い。だが、何かが違った。美味しいと感じながら食べるものではなく、生きるために胃に落とすもので、ネットカフェでよく食べていたカップ麺や、工場時代のコンビニおにぎりの上位互換のような感じだったのかもしれない。

こんなふうに、ちゃんと美味しいと感じたのはいつぶりだろう。

「どう?」と千春が聞いた。

「……美味しいです」

「でしょ。ここ、来るたびに元気になれる気がして。食べ物って大事だよね」

渉はうなずいた。本当にそうだと思った。

麺を食べながら、千春がふと聞いた。

「中村くんって、武蔵に来る前は何してたの」

渉は少し間を置いた。

「……いろいろ」

「いろいろ?」

「転々としてました」