【前回の記事を読む】所持金2千円。公園のベンチで寝ることに…深夜、警察に声をかけられた。家がないことを伝えると「気をつけて」とだけ…

3.

翌朝、駅近くのネットカフェに、ようやく空きが出た。

ネットカフェの個室は、1畳ほどの広さだった。リクライニングシートと、小さな机と、モニターがあった。シャワーは共用だった。1日の料金は1,500円。

個室のドアを閉めた瞬間、空気が止まった気がした。窓はない。光は天井の蛍光灯だけ。あの納戸を、もう一度、自分のお金で借りているような気分だった。

(ここが、今の俺の家か)

そう思ったが、不思議と絶望はしなかった。絶望する体力も、もうなかったのかもしれない。

引越し業者の仕事は続けた。朝7時に集合場所に行き、仕事が終わったら日払いで8,000円もらって、ネットカフェに帰った。

体がきつかった。毎日重いものを運んで、夜にネットカフェのシートで体を丸めて眠る。熟睡できなかった。隣のブースの咳払いや、深夜にアニメを観ている誰かの笑い声が、薄い壁ごしに聞こえてきた。

そんな生活が2週間続いた頃、渉は仕事中に目の前が暗くなった。

大きな冷蔵庫を2人で運んでいる最中だった。突然、足から力が抜けた。冷蔵庫を持っていた手が離れ、そのまま渉はその場に崩れ落ちた。冷蔵庫がぐらりと傾いて、相手の作業員が叫んだ。

「おい、大丈夫か」

渉は床に手をついたまま、立ち上がれなかった。視界の端で、白い光が点滅していた。

近くの診療所に連れていってもらい、点滴を打った。医師に「最近ちゃんと食べてますか」と聞かれた。「食べてます」と答えたが、医師は納得していない顔をしていた。

その日は仕事を早退した。日払いは半額になった。

ネットカフェに帰り、シートに横になった。

(俺、どうなるんだろう)