【前回の記事を読む】ベランダから見下ろして、「あっという間だ」と思った。でも思い止まった。その理由は、ベビーカーを押した若い母親の姿を見て…
2.
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貯金が減っていく。
通帳の残高を確認するたびに、胃が重くなった。このままでは来月の家賃が払えなくなる。
渉はハローワークに行った。職業相談の窓口に座った。担当者は40代くらいの男性で、渉の話を黙って聞いた。SNSの件は話さなかった。
「とりあえず、すぐ働けるところを探しましょうか。日払いの仕事でもいいですか」
「はい」
「体を使う仕事になりますが、大丈夫ですか」
「大丈夫です」
翌日から、引越し業者の手伝いとして働き始めた。日払いで8,000円だった。重い荷物を運び、汗をかき、夕方には体がくたくたになった。でも、動いている方が、止まっているよりずっとましだった。
体を動かしていると、余計なことを考えずに済んだ。
ある引越し先のマンションで若い奥さんが、缶コーヒーを渉と相方に出してくれた。「お疲れさまです」と頭を下げてくれた。
(人は、こんなふうに、頭を下げてくれることもあるんだ)
当たり前のことなのに、それが、渉には驚きだった。世の中の半分は、たぶん、ちゃんと優しい人たちでできている。自分が知らなかっただけだ。
ある日、マンションに帰ると、ポストに1枚の紙が入っていた。
管理会社からの通知だった。「家賃が2か月分滞納となっています。速やかにご連絡ください」と書いてあった。
渉は紙を握ったまま、玄関先に立ち尽くした。引越し業者の仕事に必死で、家賃のことを後回しにしていた。
計算した。手元に残っているのは、日払いを積み重ねた8万円ほどだった。2か月分の家賃は13万円。足りなかった。