古酒に出会った初めての衝撃
ドン・ペリニヨン
フランス/シャンパーニュ
投資助言会社に勤務していた頃、ニュージーランドの不動産や永住権に興味がある投資家を集めて、ニュージーランドへのツアーを催行していました。会社のボスはニュージーランドに気に入っているシェフがいて、ツアーではいつもそのシェフのレストランに行っていました。
あるとき、そのシェフが来日し、雅子さんの誕生日をお祝いしてくれました。場所は、神楽坂にあるフレンチレストランで、2009年のことです。シェフに誕生日という特別の事情を話してレストランに頼み込み、雅子さんの誕生年である1976年のドン・ペリニヨンを持ち込んでくれました。このとき、人生が変わるほどの衝撃を受けたのです。
このときに飲んだドン・ペリニヨンは、30年以上、じっと熟成していたことになります。「シャンパーニュの古酒は泡がなくなって、白ワインになってしまう。シャンパーニュは、ワイン・ショップの棚に並んでいるときが飲み頃なんだよ。イギリス人と日本人は異常に古酒が好きだね」とワイン愛好家に聞いたことがあり、とても心配していました。
ソムリエは、ソムリエ・ナイフでキャップシールを剥がしながら、
「シャンパーニュは、30年以上経つと泡がなくなるのですが、泡が消えて白ワインになるのではなく、昔は6気圧の泡があったことがちゃんと分かるほど、酸味がしっかりしています。特に、熟成したドン・ペリニヨンは素晴らしいと思いますよ」
と、コルクを右手でしっかり握り、左手でボトルの底をつかんでゆっくり回します。ソムリエの真剣な表情が印象的でした。右手の肩に力が入った瞬間、音もなくコルクが抜けました。
最初、ソムリエが、テイスティング用としてシェフのグラスに少量、注ぎました。シャンパーニュ地方の空気を吸っていたワインは、今、33年ぶりに神楽坂で息をするのです。思っていたより黄色味の強い色で「この黄金色は、熟成させたシャンパーニュの証拠だよ」とシェフが嬉しそう。
香りを嗅いだシェフは「煎ったナッツのような香りが素晴らしい。トーストをむしったような香りもちゃんと残っているし、バニラのようなアロマもあるね」と、熱弁が止まりません。続いて、口に含むと「キレイに熟成しているね。熟成由来の甘味もあって、こりゃ異次元の飲み物だな」と、テイスティングコメントがいつまでも続きます。
早速、全員のグラスに注いでもらい、グラスを軽く合わせて乾杯。一口飲んでビックリ。異次元の飲み物でした。複雑な香りと味、骨格がしっかりしているのに、軽快でエレガントで気品がたっぷり。酸味がクッキリして気品が満載で、凄いものを飲んでしまったと感動が止まりません。泡がないシャンパーニュがこれほど美味しいとは……。
雅子さんにとっても、初めての古酒であり、衝撃的な美味しさだったようで、忘れられないお誕生日会になりました。
昔、よく一緒に飲んでいた理系の友人が、「私たちが住んでいるのは、『縦』『横』『高さ』がある三次元の世界に、時間軸を加えた四次元の世界だよ」と言い出したことがありました。
「次元というのは、物の位置を指定することなんだよ。デートの待ち合わせは、『銀座三越の地下3階のワイン売り場で会いましょう』だけではダメ。ちゃんと『17時30分に』と時間を指定しないと会えないよね。なので、僕たちは、縦横高さの三次元に、時間軸を加えた四次元の世界に生きているんだよ」と言い、「なるほど、デートは四次元なんだ」
と記憶に残っていました。
古酒を飲んだこの日、私の「お酒ワールド」は、泡、白、赤の三次元に、古酒という時間軸が加わり、「四次元の世界」に進化したのです。
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