「いいか。人生は選択の連続なんだ。今、歩夢は「うん。そうして」と言っただろ。それだって立派な選択であり、意思表示なんだ。自分の選択を信じろ。周りに流されるな。自分が人と違うことが恥ずかしいなんて思うな」
「うん、わかった。『人に見られてプレッシャーを感じるのが恥ずかしい』って頭の中がいっぱいだったけど、『だから先生は外にいて』って、そういう答を導き出すことが大事なんだね」
「そうだ。その通りだ」
そう言って、歩夢にグータッチを促した。
今日はテストの日だ。約束どおり、俺は歩夢のお母さんとリビングで過ごした。
「歩夢は勉強中、ビクビクしたりはしていませんか? 特に勉強面のことを歩夢と話すことはないんですけど、性格が繊細過ぎるくらいの子どもなので心配なんです」
「ええ、左利きを過敏なほどに気にしています。でもこの間、勉強そっちのけで、左利きについて歩夢君と話をしました。これからも折に触れ、歩夢君の心をほぐしていこうと思います」
「そうですか。勉強だけじゃなく、そんなことまで気を配っていただいていたなんて本当にありがとうございます」
お母さんの顔がパッと明るくなった。
「焦りは禁物ですが、そのうち、俺との勉強中の様子やその日の出来事をお母さんと明るく話す日が来ますよ」
ちょっと期待を持たせ過ぎたかな。そう思いながらも、意思表示をすることができてきた歩夢の成長は感じていた。
「今日は制限時間の中でテストをやってもらったけどどう? 疲れた?」
「うん、時間を計って勉強するのは、やっぱり疲れる」
「そうか、まだ中二の途中だし、あせる必要はないよ。俺との授業中は学習意欲を強く持つこと、それから俺が出した宿題は必ずやっておくこと、これさえ守ってくれたらあとは自由にしていいよ」
「えっ? それだけでいいの?」
今までコツコツと勉強してきた歩夢にとっては容易いことのようだ。あとは自意識過剰になっている左利きのことが気になった。
「どう? 前の授業で左利きの話をしたけど、どう感じた?」
「うん、『目から鱗』はあったけど、学校に行けるようになったときに、やっぱり心配だよ」
「そうか、自分で左利きのことを調べることも良いかもな。調べるってことは、理科・社会の勉強にも役立つんだ。資料を読んだり、まとめノートを作ったりすることにね」
「うん、わかった。それを調べることで、理科・社会の勉強にも繋がるんだったら、一石二鳥だね」
翌週の授業のとき、歩夢が開口一番、左利きのことを話し始めた。