【前回の記事を読む】一斉射撃を受けても傷ひとつなかった…無数の警官を巨大な透明の球体に閉じ込めたかと思うと、次の瞬間、全員の体が1つの“肉団子”のように…
サイコ8――リヴァイアサンの暴走
「ご苦労、山口君。そのごみは後で片付けたまえ。さて、それでは地上の王としてさもしい人間どもに高らかに即位の宣言をしようではないか」
青竜がそう言うと、議場の3つのモニターに金色の眼と灰色の肌を持つ子供の姿が映し出された。
議場だけではなく、同じ画像が日本中、いや、世界中のTV、PC、スマホ、ゲーム、カーナビの画面に映し出された。ゴミ捨て場に放置された昭和のブラウン管TVの画面にさえスリーピーススーツに金色のネクタイを締めた奇怪な少年の姿が映っていたのである。
鍬下の車は国会議事堂に近づこうとしたが、前方では無数の警察車両が道路に横倒しになって炎上しており、それ以上近づくことは不可能だった。
「ここからは歩いて行く。おまえたちはここで待機していろ」
そう言うと賽子は車を降り、揺らめく炎の向こうに見える議事堂に向かって歩き出した。
「賽子さん!」
車を降りた麻利衣が叫んだ。賽子は立ち止まって振り返った。
「……絶対死なないでください。必ず、青竜を倒してください」
「当たり前だ。私は完全能力者(パーフェクトサイキック)だぞ」
賽子は再び歩き出した。
「愚昧かつ眇眇たる人類諸君。君たちは今、人類の歴史の大転換点を目の当たりにしている。君たちは砂糖に群がる蟻のように、文明の賜物を享受し、我が物顔に地球を掘削し、無駄な繁栄をしてきた。
然るに振り返ってどうだ? 今や人類は自然環境の破壊や核兵器の開発で存亡の危機に立たされているではないか。
これらの惨めな結果は全て君たちがそれぞれ自由な思考や奔放な行動を許されていたからに他ならない。
本日、私は地上の王として君たちの上に君臨した。私はこの愚かな文明を一旦無に帰そうと考えている。こういうことは時々必要なのだ。
シュメール神話においてエンリルが傲慢不遜となった人類を大洪水で滅ぼしたように。
これから君たちには『考える』ことを禁ずる。何故なら君たちは考えたとしてもろくな意見や解決法を持ち合わせないからだ。もっとも、考えることは必要なくなるだろう。
これから君たちに訪れるのは苦痛と絶望と死の恐怖だけだからだ。しかし嘆く必要はない。君たちが一旦滅んでこそ、次の輝ける時代を迎え入れることができるのだ。
そこでは誰も考える必要はない。ただ私に従っていれば全ての苦悩は取り除かれるのだ。
滅びこそ君たちに課せられた唯一の栄誉ある務めだ。しかり、私はすぐに来る」
青竜の演説が終わるとそれを映していた世界中のモニターが全て破壊され、燃え上がった。
世界中の人々がパニックに陥り、周章狼狽した。青竜は至極ご満悦だった。
「世界を滅ぼすというのは具体的にはどうされるおつもりでしょうか?」
山口がおそるおそる訊いた。
「おまえはそのようなことを案じなくてもよい。事は全て必然的に成るものなのだ。ほら、そのきっかけがおいでなさった」