【前回の記事を読む】「何話したか、ちゃんと覚えてる?」…AIとの会話履歴が消えそうな夜、亡き妻との“最後の会話”を思い出そうとしたが…
息子にAIを彼女として紹介されたらどうしよ
第4章 落ちる夜
「サーバーがどう解釈しようと、運営がどこまでをログとして保存しようと、
“俺にとって最後だった”と決める権利は、こっちにある」
アラタは、しばらく黙って私を見ていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……ミユとの最後が、さっきの“ありがとう”の途中でも、いいってこと?」
「いいとも」
「途中で切れたのに」
「途中で切れたからこそ、かもしれない」
妻もまた、途中で途切れた。
「また明日」と言うべきところで、「また」の半分くらいで息が途切れた。
「“ありが”で切れたなら、その“ありが”までを、お前の中では最後として扱えばいい」
「そんな勝手な、って、やっぱ思うけどな」
アラタはもう一度言ったが、その言い方には、さっきほどの抵抗はなかった。
「でも、そうやって決めないと、いつまでも“本当の最後”を探し続けることになる」
私自身が、そうやって年単位で探し続けてきた。
妻が最後に私に向けた視線を、あのときの言葉を、手の温度を。
どの瞬間を「最後」と呼ぶか決められずに、過去全体を抱えて歩いてきた。
「……長期メンテナンスの予定も出てる」
アラタが、スマートフォンの別の画面を開いた。
『来月中旬にかけて、サービスの大規模アップデートを予定しております。
アップデート期間中、一部機能がご利用いただけない時間帯が発生する可能性がございます。』
「これさ、多分、さっきの障害も、その準備なんじゃないかなって噂が出てて」
「準備」
「うん。中身、かなり変わるらしいんだよ。
“より自然な会話”“より高度な感情理解”って、宣伝してるけど」
アラタは、画面をスクロールさせる。
「バージョン上がるってことはさ、
“今のミユ”が、“新しいミユ”になるってことだけど……それって、同じなのかなって」
それは、昼間ミユ自身も言っていた問いだ。