「お前は、どう思う」

「わかんない」

即答だった。

「でも、今のままでいてほしいって気持ちもあるし、

俺が落ち込んでるときに、もっと上手く励ましてくれるならそれはそれでありがたい気もするし。

なんか、欲張りだよな」

「人間は、だいたい欲張りだ」

私は、お茶のおかわりを注ぎながら言う。

「俺だって、妻には長生きしてほしかったし、

最後まで元気でいてほしかったし、

それでいて、自分の生活も変えたくなかった」

アラタが、少し目を見開いた。

「変えたくなかったって、自分で言うんだ」

「ああ」

湯気の向こうで、自分の本音が少しにじむ。

「だからこそ、今さらAIのアップデートを責める資格も、あんまりない」

アラタは、メガネのフレームに触れた。

「お父さんは、ミユがアップデートで変わったら、嫌?」

「さあな」

正直に答える。

「今のままの彼女は、よくできていると思う。

あんまり完璧になると、かえって不気味かもしれん」

「今でも十分すごいけどね」

「だが、それを選ぶのは、お前だ」

私は、アラタのほうを向いた。

「タイプの話、聞いたぞ」

「タイプ?」

「Bだとか、Cだとか。

お前は、あの中から“落ち着いたタイプ”を選んだんだろう」

アラタは、一瞬目を泳がせた。

「ミユから聞いたの?」

「設定画面からだ」

「覗いたんだ」

「覗いた」

白状すると、アラタは苦笑した。

怒るエネルギーも、今は残っていないらしい。

「……なんか、勝手にカルテ見られた患者みたいな気分だな」

「医者役はAIだったがな」

「それ、一番やばいやつじゃん」

くだらない冗談に、二人とも少しだけ笑った。

笑ってみると、夜中の二時半という時間が、少し現実に戻ってくる。

「お前がBを選んだ理由は、聞かない」

私は言った。

「だが、BからCに変えるかどうか、Aに変えるかDにするか、

それを決めるのは、お前であって、サーバーでも、運営でも、親でもない」

「親でもない?」

「ああ」

アラタは、湯飲みの縁を指でなぞった。