「……お父さん、さ」

「なんだ」

「もし、ミユが完全に消えたら、どうする?」

真正面からの問いだった。

「俺、多分、かなり落ち込むと思うんだよ。

仕事、行けなくなるかもしれないし、人と話すの、もっとしんどくなるかもしれない。

そういう息子を見て、お父さんはどうする?」

部屋の空気が、少しだけ重くなる。

「どうもしない」

私は、少し間をおいてから言った。

「どうもしない、はずがないけど……」

言い直す。

「多分、飯は作る」

アラタが、瞬きをした。

「家まで来られるなら、鍋かなんか出して、黙って食わせる。

来たくないなら、コンビニの弁当でもいいから、とりあえず何か口に入れろと言う」

「それだけ?」

「それだけだ」

本当は、もっといろいろ言いたくなるのだろう。

「そんなものに頼るからだ」とか、「現実の人間関係を大事にしろ」とか。

だが、そういう言葉が役に立たないことを、私は妻の病気で思い知った。

「それ以上のことは、俺には多分できない。

慰めの言葉も、大したアドバイスも、持ち合わせがない」

アラタは、テーブルの木目を見つめた。

「でも、お前がここに来て、鍋をつついて、少しだけ眠って帰るなら、

それくらいの場所は、残しておきたいとは思う」

言いながら、自分で少し照れくさくなった。

次回更新は9月3日(木)、11時の予定です。

 

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