【前回の記事を読む】「はい。戻ってきました」アップデートされた息子の“AI彼女”。父はその言葉に、わずかな違和感を覚えた

息子にAIを彼女として紹介されたらどうしよ

第5章 アップデートの日

「俺の沈黙まで、数値化するつもりか」

ミユは、一瞬だけ目を瞬かせた。

「……申し訳ありません。

“数値化”という表現に抵抗を感じられる方も多いことは、理解しています」

「月々いくらの沈黙料を払えばいいんだろうな」

半分冗談で言うと、ミユは小さく笑った。

「沈黙に料金はかかりません」

アラタが、そのやりとりに吹き出した。

「ほら、ちゃんとツッコんでくれる」

「ツッコミなのか、ただの事務連絡なのか微妙なところだがな」

私も、つられて口元が緩む。

笑いながらも、どこかで別の感覚が頭をもたげていた。

妻が病気で入院していた頃、医者は、彼女の状態を説明するときに、頻繁に数字を使った。

血圧、心拍数、酸素飽和度。

そのどれもが、彼女の「今」を示す指標だと言われた。

だが、夜中に彼女の手を握っていたとき、私が感じていたのは、数字では測れない別の何かだった。

皮膚の温度、指先のわずかな動き、呼吸の乱れ。

その全てを合わせてもなお、「彼女がここにいる」という確信には届かなかった。

今、目の前で笑っているAIは、自分の沈黙を秒数で測り、ユーザーの寂しさをパターンとして学習する。

それは、何かを理解しようとしているのだろうか。

それとも、ただ、仕様に従っているだけなのだろうか。

「お父さん」

アラタが、こちらを見た。

「正直、どう? 前と比べて」

私は少し考え、言葉を選んだ。

「……よくできてる」

前と同じ言葉が、口をついて出る。

アラタが、苦笑する。

「それ、前も聞いた」

「ただ」

私は、続けた。