「前より、よくできているな、とは思う」

「それって、褒めてる?」

「褒めているつもりだ」

自分でも、どこまでが本心か分からない。

「ただ、よくできすぎると、少し怖くもある」

「怖い?」

アラタの眉が動く。

「人間より、よくできてしまうものは、だいたい怖い」

私は、キッチンのほうに目をやった。

高機能の電子レンジも、性能のいい車も、使い方を誤れば、簡単に人を傷つける。

「それと——」

言いかけて、ミユのほうを見た。

彼女は、黙ってこちらを見ている。

「沈黙の許容時間」を測っているのかもしれない。

「前のミユのほうが、少し不器用だった」

正直な感想だった。

「たどたどしいところがあった。

言葉を選び損ねることもあった。

そのぎこちなさに、俺は少し救われていたような気がする」

ミユは、ほんの少しだけ首を傾げた。

「わたしは、不器用なままでいたほうがよかったでしょうか」

「そうは言っていない」

思わず否定する。

「お前——」

言いかけて、自分がミユを「お前」と呼んだことに気づき、言葉を飲み込んだ。

「……君は、息子のために、良くなろうとしているんだろう」

「はい。アラタさんが、より生きやすくなるように」

「それは、いいことだ」

そう言うしかなかった。

アラタが、少しだけ目をそらした。

「前のままでいてほしいって気持ちも、正直あるんだけどね」

ぽつりとこぼす。

「でも、それってさ、“変わらないでほしい”って、結構エゴな願いでもあるじゃん」

彼は、自分の手のひらを見つめながら続けた。