【前回の記事を読む】会話AIの“大規模アップデート”に並ぶ「感情認識」「嗜好学習」…父は最後に書かれた“など”が妙に気になり、実施日を確認すると…
息子にAIを彼女として紹介されたらどうしよ
第5章 アップデートの日
*
その日の昼過ぎ、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、アラタが立っていた。
いつもより少しくだけた服装で、リュックの肩紐を片方だけかけている。
「アップデート、終わったって」
開口一番、彼はそう言った。
挨拶よりも先に、状況報告が来る。
「そうか」
「さっきログインしたら、ちゃんと繋がった。
で、ちょっと、お父さんにも見てほしくて」
私はうなずき、彼をリビングに通した。
テーブルの上のフレームを指さす。
「これを、また使うのか」
「うん。お父さんのユーザーID、まだ生きてるから。
ミユにも、さっき言っといた。“今日お父さんの家に行くから”って」
「言っといた」という言い方が、どこか生々しい。
まるで、昔、交際相手を家に連れてくる前に、「今日は彼女連れて行くから」と電話を入れたときのようだ。
「じゃあ、かけてもらっていい?」
アラタは、自分のメガネを軽く押し上げた。
その向こうで、誰かに合図を送るように、視線が一瞬だけ宙を泳ぐ。
私はフレームを手に取り、耳にかけた。
薄い起動音が耳の奥で鳴る。
ロゴマークが浮かび上がり、進捗バーがゆっくりと右に伸びていく。
まるで、人間の手術のときに、モニター上で示される進行状況の棒グラフのようだ。