「そのため、今回のアップデートでは、“ツッコミ機能”が強化されています」
「ツッコミ機能……」
思わず復唱してしまう。
妻にも、よくツッコまれた。
「また靴下裏返しに脱いで」「その言い方はないでしょ」と。
そこには、機能ではなく、気分と癖があったように思う。
「他には、何が変わったんだ」
私は、できるだけ中立的な口調で尋ねた。
「内部的には多くの変更がありますが、アラタさんのお父さんが直接感じられる変化としては——」
ミユは、人差し指を少し立てる仕草をした。
その動きは、以前にはなかった。
「話題を切り替えるタイミングと、沈黙を許容する時間です」
「沈黙?」
「はい。
以前のバージョンでは、会話が三秒以上途切れた場合、自動的に話題の提案を行うことが標準でした。
しかし、ユーザーから“考える時間がほしい”“ただ隣にいてほしい”といったフィードバックが多く寄せられたため、沈黙をそのまま共有するモードが追加されました」
アラタが、頷く。
「これ、けっこう大きい変更なんだよ。
前は、ちょっと黙ると、“今、どんな気持ちですか?”って聞かれたりしてさ」
「それはそれで、気遣いなんだろうがな」
「うん。でも、いつもそうだと疲れるっていうか。
だから、今は“黙っててもいい時間”の長さを、ミユがユーザーごとに学習するらしい」
ミユは、付け加えた。
「アラタさんの場合は、いまのところ、二十秒程度が最適と推定されています」
「二十秒」
「はい。それ以上沈黙が続いた場合は、軽い話題を一つだけ提案し、それでもお返事がなければ、それ以上は無理に話しかけません」
細かく調整された配慮が、かえって息苦しく感じられるのは、私の古さのせいだろうか。
「アラタさんのお父さんの“沈黙の許容量”は、まだ十分なデータがありませんが、おそらく——」
「待て」
私は、思わず手を上げた。
次回更新は9月17日(木)、11時の予定です。
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