【前回の記事を読む】会話AIの“大規模アップデート”に並ぶ「感情認識」「嗜好学習」…父は最後に書かれた“など”が妙に気になり、実施日を確認すると…

息子にAIを彼女として紹介されたらどうしよ

第5章 アップデートの日

その日の昼過ぎ、玄関のチャイムが鳴った。

ドアを開けると、アラタが立っていた。

いつもより少しくだけた服装で、リュックの肩紐を片方だけかけている。

「アップデート、終わったって」

開口一番、彼はそう言った。

挨拶よりも先に、状況報告が来る。

「そうか」

「さっきログインしたら、ちゃんと繋がった。

で、ちょっと、お父さんにも見てほしくて」

私はうなずき、彼をリビングに通した。

テーブルの上のフレームを指さす。

「これを、また使うのか」

「うん。お父さんのユーザーID、まだ生きてるから。

ミユにも、さっき言っといた。“今日お父さんの家に行くから”って」

「言っといた」という言い方が、どこか生々しい。

まるで、昔、交際相手を家に連れてくる前に、「今日は彼女連れて行くから」と電話を入れたときのようだ。

「じゃあ、かけてもらっていい?」

アラタは、自分のメガネを軽く押し上げた。

その向こうで、誰かに合図を送るように、視線が一瞬だけ宙を泳ぐ。

私はフレームを手に取り、耳にかけた。

薄い起動音が耳の奥で鳴る。

ロゴマークが浮かび上がり、進捗バーがゆっくりと右に伸びていく。

まるで、人間の手術のときに、モニター上で示される進行状況の棒グラフのようだ。