【前回の記事を読む】警察関係者しか入れない施設で「ぎゃあああああ!」と凄まじい悲鳴…防犯カメラを確認すると、雑巾のように地面に叩きつけられた男性が……

第3章 伝説の男

2 郷田事件

次の日、朝礼の後教練に向かいながら皆、結城と郷田が謹慎になったことを知り、郷田が熱を出して寝込んでいると聞いていい気味だと言いつつ、

「昨日のあれは一体何だったんだ?」

と噂し合った。直接結城に尋ねる好奇心旺盛な者もいたが、

「いけない本を持ち込もうとして教官に見つかったんです」

などと言われて煙に巻かれてしまったのである。

それ以来結城と同室の郷田は落ち着かない。古尾や立場も心配というより好奇心で何があったか尋ねるのだが、郷田には何も言えない。なぜなら結城の呪縛から解き放たれる直前あの無表情な顔で、

「いらないことを言うとただじゃすみませんよ」

そう言われたと思った途端、ばしっと指で耳を突かれたのだ。あの凄まじい悲鳴はその時のものである。

郷田は三日ほどで謹慎は解け熱も下がったが、それ以来顔色が冴えず元気がない。人の物を盗って食べるような意地汚さもあったのだが食事を残すようになり、授業にも身が入らないようで、ただでさえよくない成績がますます悪くなった。

あまりに具合が悪いので、どこか打ちどころが悪かったのかと思い、医者の診察も受けたが、これといって悪いところはない。

「おまえ、大丈夫か?」

心配する風を装う古尾に郷田は冴えない顔で溢す。

「ずっと気分が悪くて飯も食えねえんだわ」

いつもの勢いがない郷田を見て古尾も立場も内心面白くてしょうがない。立場はもっといじってやれと思い、しばらく黙ってからゆっくりと言う。

「それは呪いじゃねえか?」

はあ?と古尾が馬鹿にしたような声を出す。立場は面白そうに笑って言う。

「幽霊の呪いだよ。結城令助、略してゆ、う、れ、い」

古尾はへ?と言いかけたが、すぐにああ、と膝を叩いて笑う。

「幽霊か。言い得て妙だな。あいつなら呪いなんかかけそうだな」

面白そうに笑う二人を郷田は苦々しげに睨んでふらりと立ち上がる。

「俺が何したってんだ……」

そう呟く郷田に古尾と立場はどの口が……、と腹の中で毒づいたのである。

謹慎中といっても何もしないでいいわけではない。反省文と地獄のような大量の課題が課せられる。部屋で二人になった時、その課題に取りかかっている結城の背中に木野はおずおずと話しかける。

「僕があんな愚痴をこぼしたから君が郷田くんをシメたんだろう?」

しかし結城は何も答えない。郷田は最低限しか部屋におらず、自分や他の者にも嫌なことを言ったりしたりしなくなった。何があったのかはわからないが、結城が自分を助けてくれたのは確かだ。それなのに、結城が無期限謹慎で郷田の謹慎がたった三日なんて理不尽だ。