それからというもの、あのおとなしかった木野が皆に郷田の悪事を訊き回った。するといつもなら乱暴な郷田を恐れて口を噤む皆が、よれよれの郷田を見てぽつぽつ口を開き出した。

そうしたら金を強請り取られただの、課題の提出物を取り上げられただの、必要以上に柔道の技を掛けられて怪我を負わされただの、被害者が続出したのである。皆はそれを被害届にして教官に提出した。

それからすぐに郷田は教官室に呼び出された。教官はばさっと被害届の束を机の上に放り出し、

「これは本当のことか」

と、恐ろしい目で郷田を睨む。郷田はたくさんの被害届をめくってみて目をむいたが、すぐに白々しくとぼけてみせる。

「自分には覚えがありません」

郷田にセクハラを受けている者がいるという話も聞いていた教官は、苦虫を噛み潰したような顔をして厳しい口調で言う。

「おまえの普段の素行を見ているとこれらが全部虚偽申告とは思えん。警察官を目指そうとしている者が被害届を出されるのはいかがなものか!」

教官の目は節穴ではない。気付かぬふりをしてちゃんと皆の素行を見聞きしているのだ。普段の郷田なら太々しくしらを切り通しただろう。

しかしこのまま自分が無罪放免になったら今度は結城にどんな目に遭わされるかわかったものではない。郷田は観念して俯きながら、

「申し訳ありません……」

と、事実を認めた。結果、郷田は処分を受ける前に自ら退学した。何も知らずに木野は嬉しそうに言う。

「郷田くんが僕たちの訴えを認めるとは思わなかったよ」

ちなみに郷田の体調が悪くなったのは呪いでも何でもない。結城が気分が悪くなるつぼを押しただけのことである。郷田が凄まじい叫び声を上げた時だ。だが郷田が出ていく前に、もうここにいなくなるからと結城は体調が戻るつぼを押してやった。

「やっぱりてめえの仕業だったのか」

ぶつぶつ言う郷田に、結城はボールペンをかちかちいわせながら、

「指で押したんでそれぐらいで済んだんですよ。ボールペンの先で押したら……」

そう上目で郷田を見ながらにたにた笑う結城に、郷田はひっと悲鳴を上げて逃げ腰になる。

「か、勘弁してくれ!」

このボールペンのかちかちが郷田のトラウマになったのは言うまでもない。この事件で木野は、結城が本当は強く思いやり深い男だということをしみじみと感じた。結城はとぼけていたが、木野は心から感謝して礼を言ったのである。

次回更新は10月8日(木)、7時の予定です。

 

👉『幽霊巡査の闇記録』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】ふざけて彼女の体に触れると、聞いたことのない甘えた声が返ってきた。気まぐれな一夜だと思っていたのに——

【注目記事】唇はビールで濡れていて、どうでもよくなる。相手がシャワーを浴びてないこと、窓が開いてること、映画がもう、クライマックス…

 

ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp