私にとって日々の大きな問題は浴泉とは異なる毎日のお風呂だった。風呂なしアパートなので近所の銭湯が頼りだけれど銭湯は入湯料が二百三十円もかかる。おまけに夜十一時には閉店してしまうので、粋寿司で深夜まで働けば間に合わない。
したがって水だけは勢いよく出る真鍮の蛇口と石の流しが台所であり、洗面台であり、洗濯場であり、お風呂となる。もちろん水しか出ないのでお湯を使うにはヤカンで湯を沸かして水で適温にうめる必要があった。これが本当に面倒臭い! 身体の方はおしぼりで拭いて我慢していたけれど、シャンプーは髪が長いと簡単にはいかない。
そこで私は背中まであった髪をバッサリと短く切ることにした。
昭和五十九年、小泉今日子が突如やって見せて世間をざわつかせた刈り上げヘアがとてもかわいかった。学校では誰もまだやっていないのもかなり魅力的だったし、独り立ちの記念に斬新なスタイルに挑戦してみたくなった。
しかし美容院に行くお金がもったいなくもあり、自分でカットをするわけにもいかなかったので、アルバイト情報誌で知られる『フロムA』をめくって「カットモデル募集」の広告を探した。そして見つけたのが南青山にある「カットサロン・ブロンディ」という美容室のカットモデル募集広告で、ギャラはヘアショーに出演するために破格の八千円だった。
次回更新は8月19日(水)、21時の予定です。
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