「でも、こうやってさ、サーバー落ちたり、アップデートで仕様変わったりしたらさ、“最後の会話”だと思ってたものが、“途中のデータ”になっちゃうのかもしれないでしょ」

私は、テーブルの上の黒いフレームに目をやった。そこには、何の表示もない。ただの樹脂と金属の輪だ。

「最後かどうかを決めるのは、向こうじゃない」

自分でも意外なほど、はっきりした声が出た。

「こっちだ」

アラタが、顔を上げる。

「病院での会話が、どれだったのか覚えていないなら、お前にとっての“最後”は、多分もっと前の、どうでもいい日常のひとコマなんだろう」

言いながら、あの日の夕食のことを思い出す。

駅前のスーパーで安売りしていたサンマを焼き、煙で火災報知器を鳴らした。

妻は笑いながら窓を全開にし、「こんなの、全然焦げじゃないわよ」と言っていた。

「あのときの“いただきます”が、俺にとっての最後かもしれない。そう決めてしまえば、病室の会話がどうであれ、最後として扱える」

「そんな勝手な……」

「勝手でいいんだよ」

私は、アラタの言葉を途中で遮った。

次回更新は8月27日(木)、11時の予定です。

 

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