しばらく散歩も中断気味なので、ボール投げをして遊んでやる。一つ投げて持ち帰ると、次のボールを違う方角に投げてやる。
吟はボールを持ち帰ってきながら、次はどちらに投げるのだろうと視線を泳がせ、次のボールを追う行動に移ろうとする。
遊び相手の人間も、右へ投げると見せかけて、左へ投げる。
吟は右へ行きかけておいて、慌てて左へと向きを変え、必死でボールを追いかけた。
さすがに疲れたので、もうおしまい。
「ないないして」と言うと、吟は名残惜しそうに棚の前にボールを持ってきて、ぽとりと落とすようになった。
私たち夫婦には子供がいない。犬がほとんど我が子同然なので、話しかける言葉は半分は幼児言葉になる。
「いい子にしてるのよ」
「ちゃちゃが、飲みたいの?」
「もうねんねしなさい」
ある年の冬、例年にないほどの雪が降り積もった。
犬は雪を喜ぶというが、吟もそのとおり、大喜びで雪の中を飛び回った。
いつものボール遊びのつもりで、黄色いボールを投げてやる。次に赤いボールを投げる。
そのうちに、吟は一人遊びをするようになった。
赤いボールを雪の中に埋めておいて、しばらく別の場所で遊ぶ。五分ほどして、赤いボールを埋めた場所に戻ってきて、
「あれ、どこだ、どこだ、ボールはどこ行った」と、一人であちこち雪をほじくり返してはボールを探す。そして見つかると大喜びで、「あった、あった」と、口にくわえてあちこち走り回る。
そのうれしそうに楽しんでいる様子は、ちょうど三~四歳児ぐらいの一人遊びに似ている。