【前回の記事を読む】散歩中に突然、雑種犬が現れてガブリと足を深く噛まれ血が…それを見た愛犬は、見たことない獰猛な顔つきになり、相手に飛び掛かり…

第三走者 吟(ラブラドール・レトリバー) 平成十四年~平成三十年

置いてきぼり

気候が穏やかになると、毎朝の散歩が習慣になった。

夫は吟(ギン)を連れて、近くを一時間ほど歩く。私は週に一、二度は付き合うが、たいがいは朝寝をむさぼっている。

朝の六時か六時三〇分から約一時間。雨降りや風の強い日はお休みするとしても、吟にとってはそれが一日の最大の楽しみのようだった。

あるとき、夫は友人たちと、隣の県までゴルフの遠征に行くことになった。早朝四時に出発しないと、ゴルフ場の予約時間に間に合わない。バッグ片手に早々出かけて行った。いつもの時間に、吟は私たちの部屋へやってきた。毎晩父と一緒に寝ていても、散歩の時間になるとちゃんとやってきて待機している。

が、ぐるりと部屋を見回して、おや、変だぞという顔をする。

空っぽの寝床の匂いを嗅ぎ、すたすたと部屋を一回りすると、たたたっと階下の台所へと走っていった。先回りされたか、トイレにでも行ったのか、と夫を探し回っている。

「おかしい、どこにもいない」

もう一度部屋へ戻って、確かめる。

「やっぱりいない! 僕を置いてどこへ行った?」

困った顔をして吟は私を見上げる。何を考えているかが目の色や顔つきからはっきり見てとれる。

「今日の散歩は、なし。もう出かけちゃったよ」